
2025年7月、IAR Systemsは「シームレスな自動化で開発を加速!~ZephyrとIAR連携デモあり~」と題したウェビナーを開催しました。本記事では、そのウェビナーの内容を基に、複雑化する組込み開発におけるDevOpsとCI/CDの重要性、そしてZephyr RTOSとIAR開発プラットフォームの強力な連携についてご紹介します。
組込み開発の現状とDevOps・CI/CDの重要性
今日の組込み開発チームは、「より少ないリソースで、より迅速に、より高品質な製品をデリバリーする」という大きな課題に直面しています。従来のRTOSに起因する移植性の課題、セキュリティ・認証要件の複雑化、IoTスタックの断片化、そしてレガシーツールチェーンと最新のDevOpsワークフローの不整合などが、開発のボトルネックとなっています。
このような状況において、DevOpsとCI/CD(継続的インテグレーション・継続的デリバリー)の導入は、もはや必須と言えます。ルーチンワークの自動化は、ヒューマンエラーを減らし、レビュー工数を削減し、開発効率と品質を大幅に向上させます。これにより、小規模から大規模開発まで、あらゆる規模のプロジェクトでその効果を発揮します。
なぜ今、Zephyr RTOSが注目されるのか
近年、組込み業界で注目を集めているのがオープンソースのリアルタイムOS、Zephyr RTOSです。2016年のリリース以来、その勢いは目覚ましく、Linux Foundationの強力なサポートのもと、急速にエコシステムを拡大しています。
Zephyrの主な特徴と利点は以下の通りです。
- 強力なコミュニティとガバナンス: Linux Foundationの支援を受け、45以上の組織、250名以上のコントリビューターによって活発に開発が進められています。
- 幅広いアーキテクチャサポート: Arm、RISC-V、Xtensaなど、多様なアーキテクチャに対応しており、異なる製品ライン間でのスケーラブルなプラットフォーム構築を可能にします。
- 豊富なボードサポート: NXP、ルネサス、ST、Infineon、TI、Nordicなど、750以上のボードで動作実績があります。
- 開発者フレンドリーな設計: DevicetreeやKconfigといったツールにより、ハードウェア設定や機能の有効化・無効化を容易に行えます。Python仮想環境を活用した開発環境は、依存関係の管理を簡素化します。
- プロダクショングレードの基盤: IoTから産業オートメーション、医療機器、民生用電子機器まで、様々な現場で活用されており、単なる実験ツールにとどまらない実用性を持っています。
ZephyrとIAR開発プラットフォームの強力な連携
オープンソースであるZephyrの柔軟性と拡張性は大きな魅力ですが、プロトタイプから本番環境への移行には、エンタープライズグレードの機能と信頼性の高いツールが不可欠です。ここでIAR開発プラットフォームが真価を発揮します。
IARは2025年2月にZephyrプロジェクトに参加し、そのコミットメントを明確にしました。バージョン9.7以降のArm向けIARツールチェーンでは、Zephyr RTOSの完全なビルドサポートが提供されます。
両者の連携による主なメリットは以下の通りです。
- シームレスなツールチェーン統合: ZephyrのWestおよびCMakeビルドフローは、IARのビルドツールと直接連携し、コマンドラインからクラウドベースのCI/CDパイプラインまで、あらゆるプロセスを自動化できます。
- RTOS対応のデバッグ機能: IAR C-SPY DebuggerはZephyrのスレッド、ミューテックス、セマフォ、キューなどをリアルタイムで可視化し、複雑なリアルタイムシステムのデバッグ時間を大幅に短縮します。
- 開発環境の柔軟性: IAR Embedded Workbenchだけでなく、Visual Studio CodeやCLI環境など、使い慣れた環境で作業が可能です。
- 品質とコンプライアンスの確保: IAR C-STAT(静的解析ツール)とC-RUN(実行時チェックツール)により、MISRAなどのコーディング規約を適用し、開発の早い段階でバグを検出・防止します。
- 機能安全認証の簡素化: ISO 26262(自動車)、IEC 61508(産業機器)、IEC 62304(医療機器)などの機能安全規格に対応したIARの事前認証済みツールにより、認証取得の複雑さを軽減します。
- クラウドレディなDevOps環境: IARはGitHub Actionsのワークフローとすぐに利用可能なDockerコンテナイメージを提供。これにより、ユーザーはビルド環境を用意することなく、クラウドベースのCI/CDを迅速に構築できます。
ウェビナーのデモでは、実際にIARツールチェーンを用いたZephyrプロジェクトのビルド、Embedded Workbench上でのZephyrモジュールのインポートとRTOS認識デバッグ、さらにはGitHub ActionsとIARのクラウドレディなコンテナイメージを活用したDevOpsパイプラインの構築例が披露されました。これにより、IARとZephyrの組み合わせが、プロトタイピングから本番環境まで、安全かつ効率的にスケールアップするための強力なソリューションであることが示されました。
今後の展望
組込み開発は今、大きな変革期にあります。より迅速なデリバリー、厳格な標準への準拠、そして多様なプラットフォームへの拡張が求められる中、Zephyrの柔軟性とIARのプロダクショングレードのツールが連携することで、開発チームはオープンソースのメリットを享受しつつ、エンタープライズグレードの信頼性と安全性を両立させることが可能になります。
IAR Systemsは、今後もZephyrプロジェクトの一員として、カーネルバージョンのアップデートへの追従や、将来的なRISC-Vなどのアーキテクチャへの対応など、継続的なサポートと機能強化に取り組んでまいります。
本ウェビナーにご参加いただいた皆様からは、「CI/CDの重要性の認識が深まった」「CI/CDの導入が開発効率と品質向上に貢献する可能性に期待する」といったポジティブなフィードバックを多数いただきました。ZephyrとIARの連携が、皆様の組込み開発の加速に貢献できることを願っています。
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