IARの赤星です。
今回は、ウェビナーでご紹介した内容を改めてブログ形式でお届けしたいと思います。世界と比べて「保守的」と言われる日本の組み込み開発市場において、私たちがどのように変化に対応し、皆様の未来の開発を支えていくのか、その戦略についてお話いたします。
この10年で、私たちの開発環境は劇的に変わりました。その大きな変化の波を、6つのポイントで見てみましょう。
1.IDE(統合開発環境)は「選択の時代」へ
かつて統合開発環境は、各ベンダーが提供する独自のIDEや、Eclipseベースの環境が中心でした。しかし、今や世界の流れはVisual Studio Code (VS Code)へと大きく傾いています。
もちろん、日本では軽量で使いやすいIAR独自のIDEが依然として根強い人気を誇り、多くのお客様にご利用いただいています。しかし、グローバルな開発や最新のオープンソースに携わる方々にとっては、VS Codeへの対応は必須です。
【IARの対応】
私たちは、お客様の多様なニーズに応えるため、IAR独自のIDEに加え、Eclipseプラグインと、世界の主流であるVS Codeプラグインも提供しています。どの環境を選ばれても、IARの強力なコンパイラをご利用いただけるよう体制を整えています。
2.ビルドシステムとモダンなRTOS
RTOSでも変化が生じています。かつてのMakeファイルや特定のRTOS($\mu$ITRONなど)が主流だった時代は終わり、オープンで新しい技術が利用されています。
特に、プラットフォーム非依存でビルド設定を管理できるCMakeの重要性が増しており、FreeRTOSやZephyrといった新しいRTOSの多くがビルドシステムとしてCMakeを採用しています。
【IARの対応】
EWARMは、バージョン9.50以降でCMakeプロジェクトに正式に対応しました。これにより、お客様はCMakeを使ってプロジェクトを構成し、その背後でIARのコンパイラをシームレスに利用することが可能になりました。また、EWARM自体も高速な並列ビルドを実現するNinjaを内部採用しており、CMakeとセットで使用することが可能です。
3.安全の焦点は「サイバーセキュリティ」へ
10年前、安全といえば機能安全(ISO 26262、MISRA C/C++)が中心でしたが、今後はEUの規制に対応するためにもサイバーセキュリティ(ISO/SAE 21434)への対応が必要です。その際には、CWE/CERT Cへの対応が必須となります。
【IARの対応】
IARのコンパイラは長年の機能安全認証の実績があり、現在はサイバーセキュリティ基準(CWE/CERT C)やMISRA-Cに対応するための静的解析ツールなど、セキュリティ強化に役立つソリューションを充実させています。
4.開発インフラと働き方の「非集中化」
開発プロセスは、個人のPCで完結するスタイルから大きく変化しています。グローバル開発や効率化の要求に伴い、DockerやKubernetesなどを活用したサーバーベースでの開発が主流になり、テストやビルドを自動化するCI/CDパイプラインへの組み込みが急速に進んでいます。また、パンデミック以降、オフィスへの出社が必須ではないリモートワークの定着により、開発場所の柔軟性も求められるようになりました。
【IARの対応】
CI/CDやサーバー環境(Linux/Windows Server)でIAR製品を容易に運用できるよう、コマンドラインツールの運用を強化し、柔軟なライセンス形態を提供しています。これにより、場所やインフラに依存せず、常に最新で安定した開発環境を維持できます。
5. ベンダーロックインからの解放:「ソフトウェア・ファースト」の時代へ
半導体不足の影響もあり、特定のMCUに依存しない開発体制の必要性が高まりました。そして今、「ソフトウェア・ファースト・アーキテクチャ (SDA)」という概念が広がり、ハードウェア選定よりもソフトウェアの設計を優先する流れが生まれています。MCUのマルチコア化も進み、より高度なデバッグ環境が求められています。
【IARの対応】
IARは、複数のベンダーのMCUをサポートするベンダー非依存のコンパイラメーカーです。主要ベンダーのSDKやコード生成ツールとも連携しており、どのMCUを選んでも、同じIARの高品質なコンパイラとデバッガを使える環境を提供することで、ハードウェア変更時の再テストや移行にかかるコストを大幅に削減します。また近年のマルチコアに対してもデバッグソリューションを提供しています。
6. MCUベンダーツールの多様化と連携
かつてはマイコンのソフトウェア開発ではヘッダーファイルやソースコードの提供が中心でしたが、現在はピン設定、ドライバ生成、AIツールなど、ベンダーが提供するツールエコシステムが多様化しています。
【IARの対応】
私たちは、MCUベンダーのツールから生成されたプロジェクトファイルをIARですぐに使えるよう、主要ベンダーと深く連携しています。お客様はベンダーの便利なツールを活用しつつ、最終的なビルドの中核には、一貫した性能を持つIARコンパイラをご利用いただけます。
まとめ:IARは「変化の中心」であり続けます
組み込みソフトウェア開発の多様化や複雑化がすすみ、IDE、ビルドシステム、RTOS、そして開発手法のすべてが激変する中で、IARはどこを目指すのか。
それは、「どの変化にも対応できる、信頼できるコンパイラの中核」であり続けることです。
お客様がVS CodeやCMakeといった最新技術を採用しても、特定のベンダーの強力なツールを利用しても、あるいはマルチコアMCUのデバッグに直面しても、その後ろには必ずIARの最適化されたコンパイラと安定したデバッガがあります。
IARはこれからも、皆様の「開発の最前線」を力強くサポートしてまいります。ご質問がありましたらお気軽にお問い合わせください。
