ピクシーダストテクノロジーズ

開発チームのメンバーが3倍に。事業拡大を支える統合開発環境とライセンス形態の最適解とは

日本のテクノロジーベンチャーとして注目を集めるピクシーダストテクノロジーズが、開発環境の標準化と開発速度の向上に向けて、IARシステムズのARM用統合開発環境「IAR Embedded WorkbenchⓇ for ARM」を全面採用した。開発メンバー数が3年で3倍に増加するなか、標準開発基盤を活用することで、新しい製品やプロジェクトの市場投入を劇的に加速させている。

波動制御をコア技術にワークスペース領域とヘルスケア&ダイバーシティ領域で事業を展開

筑波大学発のテクノロジーベンチャーとして、独自のセンシング技術を用いて空間の人やモノをデジタル化する空間データプラットフォーム「KOTOWARI™(コトワリ)」や、感染症の予防から改善・事後対応までをワンストップで提供する感染症対策BCPソリューション「magickiri™(マジキリ)」などを展開するピクシーダストテクノロジーズ株式会社。筑波大学助教(現・准教授)として教育・研究に取り組むCEOの落合陽一氏と、アクセンチュアにてR&D戦略、新規事業戦略等を推進したCOOの村上泰一郎氏が2017年に設立した同社は、音や光などを解析して制御する波動制御をコア技術に、さまざまなソリューションを開発・提供し、業績を拡大させている。

直近の開発事例として注目できる製品の1つに、屋内位置測位技術「hackke™(ハッケ)」がある。波動制御をベースに独自のセンシング技術を活用し、従来のビーコンやWiFiの電波強度を計測する方法では難しかった高精度・広範囲かつリーズナブルな価格での屋内位置測定を可能にする技術だ。ピクシーダストテクノロジーズの事業本部副本部長、髙橋新氏は次のように話す。

ピクシーダストテクノロジーズ
事業本部副本部長
ディベロップメントチーム
プリンシパルエンジニア
髙橋新氏

ピクシーダストテクノロジーズ 事業本部副本部長 ディベロップメントチーム プリンシパルエンジニア 髙橋新氏

「高精度・広範囲な屋内位置検出によって、建設や製造、物流などの現場における業務改善を進めやすくなります。また、オフィスにおけるフリーアドレス化や、ABW(Activity Based Working)を支援することもできます。こうしたワークスペース領域でのソリューションのほかにも、空間の把握による感染症予防や、非接触振動圧刺激によってミノキシジルの発毛効果を高める研究といったヘルスケア&ダイバーシティ領域でのソリューションを開発・提供しています」(髙橋氏)

独自技術とソリューションで業績を拡大させている同社だが、製品開発の現場では、製品リードタイムの短縮や開発体制の属人化・サイロ化が進むことが懸念材料になっていた。それらの課題を解消するために採用したのがIARシステムズのARM用統合開発環境「IAR Embedded WorkbenchⓇ for ARM」だ。

開発体制の標準化のために「IAR Embedded WorkbenchⓇ for ARM」を採用

この製品は、コンパイラ、デバッガ、プロジェクト管理ツール、エディタなどをパッケージにした、IARシステムズが提供する有償の統合開発環境だ。コンパイル品質の高さ、豊富なテンプレートによる使い勝手の良さ、7000以上のARMデバイスに対応した汎用性の高さなどが特徴だ。髙橋氏は、IAR Embedded WorkbenchⓇ for ARMを採用した背景について、こう説明する。

「マイコンメーカーが提供する無償のコンパイラなど複数のツールを組み合わせて開発していましたが、エンジニアによって使うツールが異なり、バージョンや環境の違いでうまくコンパイルが通らないことがありました。製品開発のスピード化と効率化が求められるなか、開発ツールがバラバラの状態では属人化やサイロ化を招くリスクがあります。製品の品質を維持しながら、標準的な開発体制を構築できる環境をつくりたいと考えていました」(髙橋氏)

ピクシーダストテクノロジーズでは当時、空間の温度分布などを計測するセンサーを開発しており、センサーのマイコン制御が必要になった。メーカーが提供するいくつかのツールを評価するなか、IAR Embedded WorkbenchⓇ for ARMの良さを再確認したことが採用のきっかけだった。

「コンパイラやデバッガの品質の高さは知識として知っていたのですが、無償版をダウンロードして確認したところ、あらためて優れたツールだとわかりました。採用の決め手になったのは、市場での評価の高さでした。マイコンメーカー自身が自社の無償ツールではなく、IARシステムズの製品を推奨するシーンも多くあったのです。また、新しいチップやデバイスが登場したときに素早く対応するサポート力の高さも魅力でした。組み込みソフトウェア開発全体を将来にわたって継続的にサポートしてくれるという安心感がありました」(髙橋氏)

開発チームメンバー数は3年で3倍に、ライセンスをグローバルライセンスに移行

IARシステムズの松本善行氏は、製品提案から採用までの流れを次のように説明する。

IARシステムズ
セールスアカウントマネージャ
兼スウェーデンカルチャーアンバサダー
松本善行氏

x_p.jpg「無償版で使い勝手などを確認していただいたあと、ハンズオンセミナーで評価ボートを使ったデバックなどを体験いただきました。最初はモバイルライセンスからスタートし、利用ユーザーが広がるなかでグローバルライセンスへと移行いただきました」(松本氏)

モバイルライセンスは、USBドングルを用いたシングルユーザーライセンスだ。持ち運びができ、どのPCでも利用できるため、複数の開発メンバーがPCを変えながら作業するのに向いている。PCがネットワーク接続されていなくても動作する。

「筑波と東京に開発拠点があるため、移動しながらどこでも製品を利用できることは大きなメリットです。だた、コロナ禍で出社が難しく、さらに、事業拡大とともにチームメンバーが増えてくると、シングルユーザーライセンスでは不都合を感じるシーンも増えてきました。開発拠点に集まらずに遠隔から参加するメンバーもいて、ライセンスが不足することが増えたのです。そこでグローバルライセンスに移行し、世界中の複数のサイトから同じグループの共有ライセンスにアクセスできるようにしました」(髙橋氏)

開発メンバーの数は、2019年にIAR Embedded WorkbenchⓇ for ARMを採用後3年間で約3倍に増加した。開発する製品やプロジェクトも増えたことから、より柔軟に利用できるライセンスに移行することで、開発をよりスピーディーに効率良く実施できるようになったという。「利用するPCを固定したスタンドアローンライセンスやネットワーク上のユーザグループ間でライセンスを共有するネットワークライセンスなど、組織の形態やビジネスの状況に合わせてさまざまなライセンス形態を採用できることも特徴です。最近ではコロナ禍ということもあり、グローバルライセンスに関する問い合わせが増えています」(松本氏)

開発環境の標準化と開発速度の向上によって、事業拡大を支えていく

髙橋氏はIAR Embedded WorkbenchⓇ for ARMの導入効果として、3つのポイントを挙げる。1つめは開発の速度と生産性の向上だ。本製品を利用するとGCCと比較して成果物の容量を2〜3割圧縮できる。また、プロジェクトテンプレートを活用することで開発の迅速化も可能だ。「限られたリソースを有効活用することが求められる組み込み開発では、コンパイラの圧縮率の高さは製品開発の可能性を大きく左右します。たとえば、圧縮率を高めることで搭載するメモリ容量を1ランク下げ、提供価格を最適化することもできます」(髙橋氏)

2つめは属人性の排除と開発の標準化だ。メーカー提供のツールやオープンなツールが複数存在する場合、エンジニア個人のスタイルやスキルに依存しやすくなる。本製品を標準環境として利用することで、開発体制を標準化した。「バージョンの違いでコンパイルが通らないといった課題を解消できました。また、開発チームに新しいメンバーが加わっても、標準ツールと標準プロセスで開発にとりかかることができるなど、将来にわたって安定した開発体制を築くことにつながりました」(髙橋氏)

3つめは有償ライセンス利用による事業継続性の担保だ。フリーツールの場合、新しいチップやデバイスが登場したときに対応が遅れ、それが開発の手戻りや再設計につながるリスクがある。また、フリーツールの場合、技術的な問題が発生した場合にメーカーの対応が遅れることや、コミュニティのサポートに頼らざるをえないシーンも多い。「IARシステムズはトラブルが発生した場合のサポート対応が迅速です。技術的な問い合わせに対しても翌朝までに回答をいただくことがほとんどです。信頼して安心して開発に集中することができます」(髙橋氏)

実際、冒頭で紹介したhackke™の開発においても、本製品を使うことで開発期間が劇的に改善され、開発コストも大きく下げることができたという。髙橋氏は今後の取り組みとして「IoT関連のソフトウェアやデバイス開発、各種センサーのIoT化などに注力していきます。その開発基盤としてIAR Embedded WorkbenchⓇ for ARMを活用していきます」と述べる。それを受けて松本氏は、「IARシステムズは日本における組み込み開発をサポートしていきます。特に近年課題になっている組み込みセキュリティや機能安全、CI/CD構築に向けたビルドツールの提供に力を入れていきます」と、ピクシーダストテクノロジーズをはじめ、日本企業を力強く支援していく構えだ。

 

本記事は2022年1月にTECH+に掲載されたものです。

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